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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

シンプルな情熱

坂口安吾は『阿部定さんの印象』というエッセイの中で、「八百屋お七がなほ純情一途の悲恋として人々の共鳴を得てゐるのに比べれば、お定さんの場合は、更により深くより悲しく、いたましい純情一途な悲恋であり、やがてそのほのぼのとしたあたゝかさは人々の救ひとなつて永遠の語り草となるであらう。恋する人々に幸あれ」と記している。 本作『シンプルな情熱』が安吾のように「恋する人々に幸あれ」と祝福したくなるような極上の性愛映画に仕上がったのは、ヒロインのエレーヌがお定さんのように純情一途でチャーミングだからだ。一途に、世間体や常識を無視して愛欲だけに惑溺するエレーヌ。愛おしく可愛く、かつエロティックだ。演じているのはレティシア・ドッシュ。2017年にカンヌ国際映画祭のカメラ・ドール受賞作『若い女』で主人公を演じ、翌年のリュミエール賞有望女優賞を獲得。1980年生まれだから現在41歳。原作者のアニー・エルノーが年下の男と愛し合っていた年齢に近いというのが起用の理由かもしれないが、エロティシズム醸成の演技が素晴らしい。 約一年にわたる異性との恋の情熱を記録した原作の同名小説を読んだのは大昔なのでほとんど忘れているが、ヒロインが愛したAという男は、東欧の外交官かなにかではなかったろうか。本作での愛人はアレクサンドルというそれらしい名を持つパリのロシア大使館勤務の警護官。「プーチンに取り入ろうとするやつらが多い」という意味のセリフが、昔のお話ではなく現代のそれと分からせる。演じているのはバレエ界の異端児、セルゲイ・ポルーニンで、彼も大変にセクシーだ。 監督はダニエル・アービッド。1970年レバノン、ベイルート生まれ。初の長編映画『戦争の中で』『ファインダーの中の欲望』はカンヌ国際映画祭監督週間に選出された。長編劇映画4作目となる本作は、カンヌ国際映画祭公式作品に選ばれて性愛描写が話題になった。

21/6/18(金)

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