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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

MITAKA“Next”Selection 22nd 劇団普通『病室』

今回は、筆者が手掛ける公演のご紹介で恐縮です。三鷹市芸術文化センター星のホールにおいて、2001年から開催してきた『MITAKA "Next" Selection』が22回目を迎えることとなりました。その『MITAKA "Next" Selection 22nd』において最初に登場するのが、劇団普通『病室』。実はこの作品の初演時に、私はこの「水先案内人」コラムで、本作をご紹介させていただいたのである。 <<<>>> 部屋の窓際に何気なく置かれている透明のペットボトルがあって、いつしかその存在を気にも止めなくなった頃、そのペットボトルに入っていた水が焦点を作り、いつしかかすかな煙が立ち込めるような。いやもしかすると、そのペットボトルは確かにそこにあるのだけど、誰も気付いていないまま何かを焦がし始めたかもしれず、それどころか、煙が立ち上っても誰もペットボトルが焦点を作ったとは気が付かないまま、火が出た理由を探しているような。 そんな劇団普通の普通が、切れのあるセリフと表情と身のこなしと空気感で、展開されていく空間。 <<<>>> 上記は、公演を前にUPしていただいた『病室』の紹介文からの抜粋である。これを書いた時は、文章に込めた期待を遥かに超える作品を観ることができるとは思っていなかったし、もちろん、2年後に再演を手掛けさせていただくことになるとも思っていなかった。2019年10月、池袋の「スタジオ空洞」で公演された『病室』は、それほど素晴らしかった。全体を緊張感が包みながらも、どこか柔らかい空気が流れていて、茨城弁で繰り広げられる会話はぞくぞくするほど嘘がなく、その「これ以上でもこれ以下でも無い」と思える台詞を超えて、役者の表情や間(ま)が導く一瞬一瞬が愛おしすぎて、久しぶりに「ずっと観ていたい」という芝居に出会えた喜びを感じた作品だった。聞けば作・演出の石黒麻衣は「この作品を書くために、それまでの作品では『どれだけ削ぎ落とせるか』を課し、見定め続けてきた」という。過去にも何作か石黒作品を拝見してきた私は「なるほど」と唸らざるを得なかった。余計な物を削ぎ落とすことに挑み続けた先に、自らの故郷である茨城の言葉を、宝刀を抜くかの如く初めて台詞に用い、これほど純度の高い舞台を生み出せるとは。それまで拝見してきた「劇団普通」の舞台を脳内に浮かべ、今一度唸らざるを得なかった。 <<<>>> 『MITAKA "Next" Selection』にて公演していただくこととなり、いろいろなご相談をする中で、最終的に石黒さんは『病室』の再演を選ばれた。手掛けさせていただくことを、大変光栄に思うとともに、一人でも多くの人に観ていただきたいと、今、強く願っている。

21/7/10(土)

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