Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

83歳のやさしいスパイ

言われなければ、ドキュメント映画だとは気づかないかもしれない。カット割、アングル、登場人物のキャラクター、展開……全てがあまりによくできていて、“普通に優れたエンターテイメント映画”としか思えないのだ。 高齢者施設で虐待が行われているかもしれない。入所者の家族から依頼を受けた探偵が潜入捜査員として高齢者のオーディションを開催、選ばれたのは83歳のセルヒオだった。潜入といいながら、なぜか施設から撮影許可を得ているので撮影クルーも施設に入っていて、セルヒオの行動を隠れもせず堂々と撮っているのがユニーク。だから、ドキュメントらしからぬ細部まで凝ってカッチリした映像になっているのだ。 セルヒオの行動も大胆。捜査対象を求めて入所者の女性たちを次々と回り、距離を縮めていく。 これだけ何もかも大っぴらだと潜入も何もあったものではないが、実際、話は当初の予定とは異なる方向に流れる。さまざまな女性たちの話を聞いているうちに、カウンセラーのような立場になっていたのだ。彼の存在はいつしか孤独な高齢者たちの癒しに。そのため、依頼人や探偵と対立することも。まるでスパイ映画のような構図だ。 登場する高齢者もひとりひとりがチャーミング。画面から伝わる空気はどこまでも温かく、だからこそ寂しい。チリの映画だが、万国共通の“今”が伝わる内容になっていた。

21/7/11(日)

アプリで読む