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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎とか文楽とか…伝統芸能ってカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

令和元年12月歌舞伎公演『近江源氏先陣館―盛綱陣屋―』『蝙蝠の安さん』

12月の新作歌舞伎ラッシュ、ある意味一番気になるのが国立劇場の『蝙蝠の安さん』かもしれない。このお芝居の主人公は、正義のヒーローでもヒロインでもなく、ちょっとまぬけな浮浪者なのだ。 チャップリンの映画『街の灯』の公開前情報を頼りに、一気に歌舞伎の作品に書きかえた木村錦花。チャップリンの演じた役を、こともあろうに『与話情浮名横櫛』の蝙蝠の安五郎というキャラクターに置き換えたこと。その狂言作者としての勘とセンスに舌を巻く。 美男の二枚目でもなんでもない、浮浪者の蝙蝠の安五郎。とはいっても作者が借りたのは名前と見た目だけ。本編の蝙蝠の安はせこくて欲深な男だが、この新作の方の蝙蝠の安さんは情け深くて心は紳士だ。病で盲目となった花売り娘をあの手この手で助けてやろうとする。映画ではハッピーエンドを想像させるが、このお芝居ではちょっと切ない幕切れが待っていそうだ。 発案したのは、なんと30年ほど前からこのアイデアを温めていたという松本幸四郎。初演は十三代目守田勘彌だ。そのルーツを大先輩に持つ坂東新悟がヒロインのお花に抜擢された。スマートではかなげな風情がぴったりだ。 「12月はあちこちで新作歌舞伎を上演しているが、『ナウシカ』にも『白雪姫』にも負けないように、いや、勝つつもりで挑みます!」と幸四郎は気焔を上げた。 国立劇場のもう一本は歌舞伎の古典中の古典『盛綱陣屋』。松本白鸚が28年ぶりに佐々木盛綱に挑む。こちらは大役を初役でつとめる役者が多い。和田兵衛秀盛を坂東彌十郎、盛綱妻早瀬を市川高麗蔵、後室微妙を上村吉弥、伊吹の藤太を市川猿弥と、フレッシュで、しかもうってつけの配役ばかりだ。 「待ってました!」のおなじみの配役は歌舞伎の醍醐味の一つだが、抜擢の影響力はやはり大きい。ある役者はこう語る。「いわゆる門閥外の役者がこんな古典狂言で大役をつとめるなんて大変なことです。感謝の気持ちでいっぱいです」と。初役の役者たちの緊張感やモチベーションがさざ波のように舞台に広がり、客席に伝わり、いい効果を生まないわけがない。これは伝統芸能だろうが現代劇だろうが変わりはない。

19/11/29(金)

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