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水先案内人のおすすめ

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洋画、邦画、時々アニメ 映画で人生が変わります

堀 晃和

ライター&エディター。記者歴27年、元産経新聞文化部長。映画と音楽と酒文化が守備範囲。

この世の果て、数多の終焉

既視感に乏しい作品だった。静謐でありながら、こんなにも戦地の残虐性を浮かび上がらせた映像表現があっただろうか。ベトナム戦争を描いた傑作『ディア・ハンター』などでも残酷なシーンはあった。しかし、人の形をとどめない遺体、性欲を直視した描写などすべてが生々しい。 舞台は1945年、大戦末期の仏領インドシナ(現在のベトナム)。仏軍の青年兵士ロベール(ギャスパー・ウリエル)は襲撃された部隊で一人生き延び、森の中をさまようが、何とか自軍に復帰する。そして虐殺された兄の仇を打つため、ベトナム解放軍将校を探す日々が始まった。神経が消耗する中で、ロベールはベトナム人娼婦のマイと知り合い、心の安らぎを得るが……。 派手な戦闘シーンはない。ただ、静かな自然の中で人が簡単に肉塊となっていく描写が恐ろしい。ロベールが心を通わすマイと性交する場面も、愛を確かめる行為というよりは、いつ死ぬか分からない極限の心理状態があぶりだされていて痛々しい。 密林を背景に狂気を描いた物語は傑作『地獄の黙示録』を想起させるが、戦争が多くの人生を狂わせる事実をもっとストレートに提示した印象だ。名優ジェラール・ドパルデューの存在も見逃せない。

20/8/10(月)

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