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水先案内人のおすすめ

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洋画、邦画、時々アニメ 映画で人生が変わります

堀 晃和

ライター&エディター。記者歴27年、元産経新聞文化部長。映画と音楽と酒文化が守備範囲。

ホモ・サピエンスの涙

見つめる映画だ。全編ワイドレンズによるパンフォーカスで、カメラは動かない。33シーン全てがワンシーンワンカット。シーンごとに挿話があり、登場人物は大写しされず、ピントが背景の隅々まであっているため画面に情報があふれている。観る者は自然とその光景を凝視することになる。 驚くのは行軍シーンの外観を除き、他は自身のスタジオで撮影されたことだ。ロイ・アンダーソン監督は野外撮影やCGを極力排し、スタジオで独特の映像を生み出してきたスウェーデンの巨匠。本作でも巨大なスタジオにセットを組み、縮尺模型やマットペイント(背景画)などを駆使して実物と見分けがつかないほどの精緻な世界を構築してみせた。この街並みや景色が作り物とは気付かないだろう。 「男の人を見た」「女の人を見た」。こんな女性の声に誘われ、やわらかな光の中でいろんな人々が描写されていく。荒廃した街のはるか上空を抱き合って漂うカップル、信仰を失ったと嘆く牧師…。固定された丹精な構図はどれも絵画的で、多様な警句が潜む。推したいのが、誕生会に向かう途中で土砂降りに見舞われ、小さな傘をさす少女と戸惑う父親を描いたシーン。ずっと見つめていたい美しい光景だ。

20/11/19(木)

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