評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
ノージャンル、ノーボーダー。個人的アンテナに引っかかるもの
佐藤 久理子
パリ在住、文化ジャーナリスト
天国にちがいない
21/1/29(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町
パレスチナを代表するエリア・スレイマン監督、主演のコメディは、ジャック・タチとジム・ジャームッシュを足して政治性を加えたような感じだろうか。ビジュアル的なコミカルな面白さとゆるゆるとしたテンポ、そしてパレスチナ問題を遠回しに、皮肉の効いたユーモアで表現している。 主人公はスレイマン自身で、次回作の資金を求めて故郷ナザレからパリ、ニューヨークへと旅をする。パレスチナ人というだけでびっくりされたり、なぜか空港の探知機が鳴ったり。どこにいっても孤独な傍観者である彼の視線を通して、不条理でいびつな世界が描かれる。 スレイマンのユーモラスな立ち姿、表情豊かな瞳は、この世の辛辣さを一身に受け止めつつ、それを笑いに変えて観客に投げ返す。そこに込められたメッセージを真摯に受け止めたいという気にさせる、奥深い作品だ。
21/1/27(水)