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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

1980年代日本映画―試行と新生

『犬神家の一族』3/13 (土) 国立映画アーカイブ 「1980年代日本映画――試行と新生」で上映 43年前の2月11日に公開に公開された市川崑×石坂浩二による金田一シリーズ第4弾『女王蜂』は、東宝映画に製作母体が移ったシリーズ2作目以降としては、最大のヒットとなった。理由は、カネボウと組んだタイアップで女性観客にアピールしたことも大きいが、公開1か月前の1月16日にTBS系でシリーズ第1弾の『犬神家の一族』がテレビ初放送され、40.2%(ビデオ・リサーチ調べ)という驚異的視聴率を叩き出したことも影響したと思われる。これは当時のテレビ放送された映画の最高視聴率で、現在も歴代4位の数字だ。しかし、この放送は波紋を呼ぶことになった。 『犬神家の一族』は、1976年10月16日に先行上映され、同年11月13日に全国公開。これが映画初プロデュースとなった角川書店社長・角川春樹は、本作を大ヒットさせて角川映画をスタートさせた。閉塞した日本映画界に新風を送り込み、業界の古びた慣習を次々に破っていくことが話題になった。 映画製作のプロセスそのものをイベント化させる角川映画らしい手法で2作目となる『人間の証明』の製作を進めつつあった1977年3月、角川は『犬神家』のテレビ放映契約を結んだ。一説では5千万円と言われる放映権料で購入したのはTBS。1978年1月以降に1回限りという契約で、連休最終日に当たる1978年1月16日の放送が決まった。 これに異議を唱えたのが、大手映画会社各社の加盟する映連である。この時代は、映画のテレビ放送は公開から3年後という慣例があった。と言っても明文化されているわけではなく、映連未加入の角川春樹事務所(角川映画の製作母体)が、いつテレビに売ろうが自由である。慌てた映連は本作の配給を担った東宝に対応を迫るが、角川とは公開から1年間の劇場配給権を結んでいるだけなので、1977年10月時点で切れており、以降のテレビ放送について文句を言う立場になかった。 この騒動を受けて角川側は「そんな取り決めは知らなかった」としつつ、東宝や東映との関係もあることから放送日の延期を局に打診するが、TBSは予定通りの放送を行い、かくして全国公開から1年3か月で『犬神家の一族』はテレビに姿を現した。 放送にあたってTBSは『月曜ロードショー』を30分延長して2時間半枠を用意し、放送時間の関係から行う12分の短縮も、市川崑監督に再編集を依頼し、魅力が損なわれないよう細心の注意を払った。これ以降、邦画話題作は1年を目安に放送されることが増え、『人間の証明』も公開からちょうど1年でフジテレビが放送、高視聴率を記録した。 やがて各テレビ局が映画製作に参入し、放映権を自局が優先的に獲得する流れが生まれたが、現在に至るまで続く映画とテレビの関係を変えた点からしても、『犬神家の一族』は日本映画のみならず、テレビにおいてもエポックメイキングな存在であったことが理解できよう。 今回、国立映画アーカイブで上映される本作は、同館所蔵の35mmプリントである。コントラストの濃い青味がかった色調が特徴で、現在、配信やブルーレイで見られる本作とは、かなり印象が異なる。『犬神家の一族』はVHS時代から何度も商品化されているが、そのたびに大きく画質が変貌している。 1991年に〈ネガテレシネによる高画質デジタル(D2)ニューマスター仕様〉という触れ込みで再発売されたレーザーディスクは、鮮明かつ明るい画調で、初夏の緑が印象的な本作を映えさせたが、DVD時代に入って最初にリリースされた2000年発売のDVDは青味がかった色調で、国立映画アーカイブ所蔵プリントの印象に近い。2006年に作られたデジタルリマスター版DVDは暗く、くすんだ色調になっており、これはこれで作品の世界に合うものの、これまでリリースされたものと差が大きすぎる。 『犬神家の一族』は今もテレビ、配信でおなじみの作品だが、国立映画アーカイブ所蔵の美しいフィルムを観ると、また新たな印象を受けるのではないだろうか。

21/3/2(火)

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