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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

燃ゆる女の肖像

もはや、ひと昔前になるが、長篇デビュー作『水の中のつぼみ』(07) で来日した際、まだうら若い少女のようなセリーヌ・シアマにインタビューしたことがある。終始こちらを睨みつけるような硬い表情を崩さなかったが、全編に偏在する幻惑的な<水>のイメージがイエジー・スコリモフスキーの『早春』(70) を想起させると感想を述べると、一瞬、不敵な笑みを浮かべたのが強く印象に残った。 『燃ゆる女の肖像』も、冒頭、ヒロインの画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)が、突風で海面に落ちたキャンバスを探しに小舟から荒れ狂う海へ飛び込むシーンから不穏な世界へと一挙に引き込まれる。 18世紀のフランス、周囲と隔絶したブルターニュの孤島を舞台に、伯爵夫人からの依頼で、娘のエロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を依頼されたマリアンヌは、逗留する間に、次第にお互いに惹かれあってゆく。当初、謎の投身自殺を遂げた姉の不在から『レベッカ』のようなゴシック・ホラーの展開を予感させるのだが、『水の中のつぼみ』でも明瞭なモチーフであったレズビアニズムが、この映画ではより一層、純化され、途方もない強烈なエモーションの源泉となって画面をあふれんばかりに満たすのだ。 画家として際立った才能を持ちながらも、女性であるために父親の名前で作品を発表せざるを得なかった18世紀という時代の拘束と、女性同士の性愛という禁制。この二重化された抑圧を強いる世界のなかで、これほど名状しがたいパッショネイトな愛の世界を現前させるセリーヌ・シアマの力業に圧倒される。ヴィヴァルディの『四季』から「夏」が、リフレインされるが、とりわけ二度目に流れる「夏」の旋律がこれほど悲痛で、深く胸を打つのは稀有なことではないだろうか。

20/12/2(水)

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