意志ある者の可能性と母の愛は無限だ。 インドで暮らす14歳のインシアには、歌手になりたいという夢がある。人生に立ち向かいたい彼女には、女性差別者の父親に暴力を受け続ける母がか弱く、時として愚かに見えてもどかしい。インシアを演じたのはザイラー・ワシーム。製作を務めたアーミル・カーンが端役に徹し、『ダンガル』に続く共演を果たした。 私が子供の頃、田舎町では離婚家庭はほぼ皆無で、シングルマザーは今よりずっと生きづらかった。そんな中で離婚を選んだ今の私よりもずっと若かったあの頃の母の決断を、私は今も変わらず尊敬している。母は「世間の目」と戦う覚悟をしたのだ。 そんなことを思い出す本作は、サクセスストーリーであり、女性の自立を描く社会派ドラマでもある。そして根底を流れるのは母娘の愛の物語だ。まだ女性蔑視が根強いインド社会で、インドのスーパースターであるアーミル・カーンがこのテーマを扱いメジャーな映画を製作すること、そして大ヒットを勝ち得たことの意義深さは、今の日本において特筆すべきポイントだ。映画は娯楽であり、手段でもある──そんな背筋の伸びるような作品だった。 「立ち上がれ」。観終えたら、きっとこんな声が聞こえるはずだ。

19/8/9(金)