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水先案内人のおすすめ

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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

皮膚を売った男

“自由”とは何かを強く問いかけてくる作品だ。とにかく着想に驚かされた。 不当逮捕されたことでシリアから亡命しレバノンに暮らす主人公のサムがヨーロッパに渡ろうとする話なのだが、そのための手段が凄い。人気の芸術家の目にとまったサムは背中にビザの刺青を彫ることを持ちかけられ、“芸術作品”となることで移民としてのビザを得るのだ。 5つ星のホテルに泊まり、ワインにキャビアの毎日。圧政に苦しんだシリアでも、貧しさに追われたレバノンでも、考えられなかった生活を得た。 しかし、サムの表情は決して晴れない。芸術作品であるため、美術館に自身の身体ごと陳列され、ついにはオークションにまでかけられてしまうのだ。 自由を求めて祖国を飛び出したはずが、さらなる不自由に陥ってしまう皮肉。自由を叫ぶ人々がサムを人間として扱わない皮肉。最も助けたくない人間を助けなければならない皮肉。さまざまな皮肉が待ち受ける展開の果てに、サムが採った選択は全てを打ち破るべく闘うことだった。 そして迎えることになる結末は、実際の世界の現状からするとファンタジーかもしれない。が、こうした現実では難しいかもしれないファンタジーを創れるのも、映画の大きな魅力だ。

21/11/15(月)

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