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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

セノーテ

寡聞にも、メキシコのマヤは一時代の“文明”であって、現在性をもって生き続ける文化であるとは考えていなかった。ところがこの2020年、日本語になった「新しいマヤの文学」シリーズの刊行が始まった。日本はありとあらゆる言語の文学書を翻訳してきた国だが、このニュースは衝撃的だった。生きている先住民文化に光が当たりつつある。 映画『セノーテ』は、ユカタン半島に無数にあるセノーテ(水中洞窟)にカメラを持ち込んだ。セノーテは水を生み出す泉であり、古いマヤの人々は雨乞いのため生け贄をセノーテに捧げたという。観光化されたセノーテも多いそうだが、小田香監督はひっそりとした泉を選んでカメラを潜らせる。 見る者は、水面下と水面上を行き来するiPhone映像の超現実的な光景にも魅入られないではいられない。それは私たちの日常の視覚を超えた、かたちや色の激しい交錯である。その一方で、8mmフィルムで撮られたマヤ起源の人々の顔や、営みが素晴らしい。そこには、歴史を背負って生きる人々の艶やかな質感があり、マヤが現在形の文化であることを教えてくれる。その振幅に圧倒されているうちに、この映画は終わるだろう。

20/9/14(月)

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