Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

ある画家の数奇な運命

ナチス政権下のドイツから東ドイツ、そして西ドイツへと、激動の時代を生きたひとりのアーティストの物語。モデルは、旧東ドイツのドレスデンに生まれ、1961年3月、西ベルリンと東ベルリンの境界線が封鎖される数ヶ月前に妻と西ベルリンに移住し、後にドイツを代表するアーティストとなるゲルハルト・リヒター。 監督から映画製作の提案を受けたリヒターが監督に提示した条件は、「会話の記録は残さないこと。登場人物の実名は出さないこと。美術作品は映画のためにオリジナルに制作すること。何が<真実>であるのかを断定的に表現しないこと」。これらのハードルをクリアしてできあがった、虚実ないまぜの脚本が素晴らしいのだ。 事実として知られているのは、リヒターの叔母がナチスの優生学に基づく安楽死政策で若くして亡くなったこと。そして、最初の妻エマの父親が彼女の死に関与していたこと。叔父2人も戦士していること。教職を得るために党員にならざるを得なかった父親が第二次世界大戦終結後に公職追放されたこと。思春期から青年期の彼の刻まれた幾多の「傷」を思う。 リヒターは、西ドイツに移住後、デュッセルドルフ芸術アカデミーで、ソ連主導の東欧圏の社会主義リアリズムとは180度異なる前衛的な実験に刺激を受け、同世代の学生たちとともに自らの絵画観・芸術観を更新していく。ヨーゼフ・ボイスをモデルとする教授との交流も織り込まれ、アート好きの心をくすぐる仕掛けもあちらこちらに。時代の波にもまれながらも、芸術と真実を追い求める意志を抱き続けたアーティストの生き様を受け止めてみたい。ラストシーンの胸に沁みいる深さときたら!!

20/9/29(火)

アプリで読む