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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

公開70周年記念 映画『羅生門』展

ほとんどの映画は、時間とともに忘れられてゆく。いま忘れ去られずにいるかつての映画など、無数の映画の中ではほんの一握りにすぎない。その一握りの中でも決定的な日本映画とは何だろうか。国際的な知名度も合わせて考えれば、やはり黒澤明の『羅生門』に尽きるのだろう。「再発見」でもなく、当時から今までずっと映画ファンの頭の片隅に残り続けてきた一本だ。 その背景と秘密を解き明かそうとするのが「映画『羅生門』展」である。有名な「食い違う四つの証言」という橋本忍の生んだ脚本構造だけではない。一本の映画だけで展覧会が成立するほど、この映画の斬新な表現を支えたスタッフのアイデアは斬新で(一部には伝説も生まれるほどだ)、傑作といえども世界に認められるにはドラマティックな偶然の重なりも必要だったと分かる。知れば知るほどまた面白くなるのだ。 キャメラマン宮川一夫とスクリプター野上照代が使った書き込み入りの台本と実際の映画の場面をシンクロで見られる(しかもコロナ時代に対応した非接触のシステムで)デジタル展示、四つの証言を四分割の画面で同時に見られるモニター(京マチ子の四変化が素晴らしい)、そして巨匠ロバート・アルトマンが「私もあの映画を見たときは撮影ですぐ太陽にキャメラを向けたものだ」と回想するインタビューなど、凝った映像展示が多いのもこの展覧会の特徴だ。 黒澤の親友だったが早世した早坂文雄の直筆楽譜、ヴェネチア映画祭への出品交渉をしたジュリアナ・ストラミジョリの旧蔵品など、一次資料も集まっている。帰り際に建物の一階ロビーで「羅生門」の再現セットに感嘆しつつ、そこで記念写真を撮れば、充実した一日が約束されるだろう。

20/10/25(日)

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