Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

クラシック、歌舞伎、乱歩&横溝、そしてアイドルの著書多数

中川 右介

1960年生まれ、作家、編集者

天才ヴァイオリニストと消えた旋律

これも広義の「反ナチス映画」と言えるが、モデルとなった音楽家がいるわけではない、完全なフィクション。 第2次世界大戦開戦前夜、ポーランドからヴァイオリンの天才少年がイギリスに連れて来られる。戦後、21歳になっている天才ヴァイオリニストは、デビューコンサートを開くことになったが、リハーサルを終えた後、行方不明になってしまい、生死も分からないまま35年が過ぎる。 なぜ彼は消えたのか、いまどこにいるのか――35年後に、この謎をヴァイオリニストの後援者の息子で、兄弟のように育ち、いまは音楽評論家となっている男が突き止める。 原題は『The song of names』で、直訳すると「名前の歌」。何のことか分からない。主人公が天才ヴァイオリニストの居所を突き止めて、35年前に何があったかが明かされるなか、この「名前の歌」が何であるかが分かる。これが衝撃だ。 「人探し」のミステリーとして物語は進むが、「名前の歌」が歌われるシーンは胸がつまされ、ナチスの罪の大きさを改めて印象づけるのだ。 ラストで、それまでは「謎」ではなかったことが、ある人物の「秘密」だったことが判明するという、どんでん返しも待っている。 原作の小説を書いたのは『巨匠神話』『だれがクラシックをだめにしたか』など、クラシックの辛口評論で知られるノーマン・レブレヒト。残念ながら邦訳はないので、このような小説を書いていたとは初めて知った。

21/11/25(木)

アプリで読む