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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

イップ・マン 完結

「とうとう『イップ・マン』シリーズも終わってしまうのか」。原題の『葉問4完結篇』に完結の文字が入っているのを初めて見たとき、そんな感慨がこみあげてくるのを禁じえませんでした。本シリーズは主演のドニー・イェンをブルース・リーやジャッキー・チェンと並ぶアクションのスーパー・スターに押し上げただけでなく、ブルース・リーの師匠であるイップ・マン自身を中華圏の誇るべき大武術家の地位にまで高めたからです。 単に強いからというだけでは、ここまでイップ・マンが支持されることはなかったでしょう。観客が彼に共感したのは詠春拳による迫真のアクションだけでなく、普通の人と変わらずに妻や子供を大事に思う気持ちがあり、そこに人間としての強さと優しさを感じ取ったからに違いありません。シリーズ4作目の本作でも反抗期を迎えた息子の将来を思い、留学先を探すため渡米を決意する父親の苦悩ぶりがしっかりと描かれています。 1964年、サンフランシスコに渡ったイップ・マンは、弟子のブルース・リーとの再会を喜ぶ一方でアメリカの同胞たちが直面する厳しい現実を知ります。息子の留学に欠かせない推薦状をめぐり一度は対戦した太極拳の達人ワンが、今度は中国武術を敵視する海兵隊軍曹バートンに敗れてしまい、イップ・マンは病を隠し、中国人の誇りのために最後の戦いへと向かいます。 ウィルソン・イップ監督手がける本シリーズにはイップ・マンと外国人武闘家の対決がたびたび登場します。第一作『イップ・マン 序章』では日本軍の将軍と、第二作『イップ・マン 葉問』ではイギリス人ボクサーとの死闘でした。同じように本作では海兵隊のバートン軍曹とのバトルが最大の見せ場として展開されていきます。共通するのは背景に中国人への差別があり、我慢に我慢を重ねたイップ・マンが中国人の誇りをかけて挑まざるを得ないという展開です。ワンが自分の娘に「外国人に膝まづくな」と諭したり、中国人が「白人は傲慢だ。ここには平等がない」と吐き捨てるように言うのも、そんな差別への反発心からでしょう。 逆にバートン軍曹が「アメリカは世界で最も偉大な強国だ」と自らを鼓舞するのは、その56年後にアメリカのトランプ大統領が大国に並ぼうとする中国を意識しながら「アメリカ・ファースト」を声高に叫ぶ姿とどこか重なるように思います。 名残惜しいですがシリーズは終わり。チャン・クォックワン演じるブルース・リーが奇声を発しながら華麗なるヌンチャクさばきを見せるシーンや過去の名場面がフラッシュバックするサービス映像は見逃がすことはできません。

20/6/30(火)

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