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水先案内人のおすすめ

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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

アウシュヴィッツ・レポート

1日に3012人、1時間に125人、1分間に2人。 これは劇中で説明される、アウシュヴィッツで虐殺されたユダヤ人の数だ。こうして数字で説明されると、そのおぞましさが改めて具体的に突き刺さってくる。 今では史実として世界中の人々が知っているこの悲劇だが、当時は外の人間はほとんど知らなかった。本作は、それを知らせるために命を賭けて闘った人々の物語。 ふたりの囚人が収容所から脱走する。この惨状を連合国に伝え、救ってもらうために。 ただ、作品の前半は脱走したふたりはほとんど出てこない。ナチスはふたりの行方を追うため、残った囚人たちにさらなる地獄を味合わせる。静寂に満ちたゾッとするほど美しい映像の中で、狂気の世界が長く綴られていく。それにより、それでもなお誰一人として決して口を割らなかった彼らもまた、この歴史的に重大な任務を成し遂げた英雄だったのだ……と伝わってきた。 本作がもうひとつ見事なのは、ふたりが連合国に伝えてメデタシ……とはしていない点だ。彼らの願いがなかなか届かないもどかしさも丁寧に描き、連合国側にも突きつけているのである。 その分、観終えてのし掛かるものは大きい。が、だからこそ秀逸といえる。

21/7/28(水)

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