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五十川 晶子

フリー編集者、ライター

国立劇場 令和3年11月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』

今現在上演されている歌舞伎の演目の中でも一大ジャンルを誇る義太夫狂言。『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』など、人形浄瑠璃として初演された作品から、題材や音楽などを軸に歌舞伎に移したものだ。中でも上演されることの多いのが『一谷嫩軍記』の「生田森熊谷陣屋の場」、通称「熊谷陣屋」だ。平家物語で有名な敦盛最期のエピソードをご存じの方も多いはず。ところが「熊谷陣屋」では熊谷次郎直実が自分の子、小次郎を敦盛の身代わりにする。 今月の国立劇場では、その「熊谷陣屋」の熊谷を中村芝翫が芝翫型で勤める。熊谷といえば團十郎型で上演されることが多い。熊谷が”敦盛を討った”様子を物語る「物語」や、首実検の動き、台詞回し、そして幕切れ、衣裳や顔のしかたに至るまで、團十郎型と芝翫型では様々な点に相違がある。 その最たるものは幕切れだろう。團十郎型では舞台に義経たちを残し幕が引かれ、花道に頭をまるめ僧形となった熊谷が一人たたずむ。そして余情たっぷりに引っ込んでいく。お客から見れば、熊谷と熊谷を勤める俳優、そしてこれまでの16年間と出家したこの後の熊谷の人生へと思いを馳せることになる。どこまでも熊谷直実が主であり、ある意味英雄でもある。 一方芝翫型は、より人形浄瑠璃の原作の演出に近い。顔は赤っ面、衣裳は赤と黒のビロード、動きも台詞回しも古風で派手、時代狂言としての趣が強い。そして幕切れは、有髪の僧の熊谷による「ひっぱりの見得」、登場人物たちも舞台に残ったまま幕が引かれる。「幕外の熊谷」はない。 今回熊谷を勤める中村芝翫は製作発表で芝翫型の幕切れについて「熊谷と相模がまだまだ未熟な若夫婦であり、何か考えさせるような余韻を残す」効果があると語っている。また熊谷だけではなく、源平合戦の渦中にある義経や弥陀六、相模に藤の方など、登場人物たちの群像劇という趣も濃くなる。 今回は49年ぶりに上演される「御影浜辺の場」から始まるため、石工の弥陀六のドラマが加わる。また通称「入込み」と呼ばれる藤の方や弥陀六が熊谷陣屋へやってくる場面も加わり、「熊谷陣屋」の謎がいっそうわかりやすい構成となっている。  

21/10/22(金)

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