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水先案内人のおすすめ

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白坂 由里

アートライター

空に聞く

思い返すほどにいい映画だと思う。窓から差し込む光に照らされた手が音響機材を操作している。その女性が東日本大震災後から3年半務めた「陸前高田災害FM」のパーソナリティーだとわかるのは、しばらくその所作をカメラが見つめた後だ。プロのアナウンサーではない阿部裕美さんになぜ白羽の矢が当たったのか、だんだんに察せられる。仮設住宅のお年寄りに昔の話を尋ねる様子など、取材を基本とする筆者も肝に命じたいことばかりだ。聞いていたいし、話したくなる声。スタジオから一人で語りかけているときも、空を通じて人々につながっているような気がしてくる。 監督の小森はるかは、友人の瀬尾夏美と震災ボランティアに行ったのがきっかけで、2012年に陸前高田に転居。人との関係性を大事にしてカメラをなかなか回せなかったという小森は、阿部さんを媒介として高田の人々に出会ってゆく。どこの誰というテロップやナレーションもないが、それは小森監督が、属性よりもいま目の前にいる人そのものを見ようとしている証ではないだろうか。 阿部さんも小森監督も、1回1回が異なる「一回性」を大切にしている。生きている人も、かつてこの地で生きていた人も同じように守っている阿部さん。タイトルはシンプルな言葉だが、経験した者じゃないと出てこない深味がある。思わず笑いがこぼれるシーンもある。さりげないが、紋切り型がこの映画には一切ない。

20/12/1(火)

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