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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

城山羊の会 石橋けいの『あたしに触らないで!』【配信あり】

一昨年12月、下北沢ザ・スズナリで上演された、城山羊の会公演『埋める女』の当日パンフレットには、こう記されていた。 「城山羊の会は、今回でしばらくお休みを頂きます。またいつかみなさまと劇場でお会いできることを楽しみにしております」 しかしまあ以前にも、東京芸術劇場で拝見した『効率の優先』という公演において、 「みなさま、本日は、お忙しいところ、わざわざ、城山羊の会『効率の優先』にお越しくださいまして、まことにありがとうございます。(中略)山内ケンジの家内でございます。 本来ならば、山内本人がご挨拶するべきところなのですが、今回の台本執筆中に、山内は精神に異常をきたし、やっと数日前、東京逓信病院精神科を退院いたしました。食事も普通にとり、笑顔も見せるようになっています。 出演者の岡部さんに代わりに演出をしていただき、昨日の通し稽古を見学した山内は、「へえ、面白いね、やっぱりハイバイは」と言って帰っていったとのことです。(後略)」 なんて文章を当日パンフレットに載せ、文末にはしっかりと「山内信子」と奥様の名前が入っていたので、(何度か、三鷹の劇場での公演をお願いしており)ほんの少しだけ関係者といえば関係者である私ですら「ほ、ほんとに?」と割と素直に騙されたことがある山内さんの当パン文章ではあるので、一応は 「そう書きながらも・・・ねえ」 と、努めて平静を装い、開演前の当パンからしてすでに迸(ほとばし)る山内アイロニーを、最大限満喫しながら舞台に身を委ねていくと。 その『埋める女』の、自分の感覚がピリピリと音を立てているのではと思えるほどの圧倒的な面白さの果てに。 山内ケンジの休止表明が、全くのシンプルなメッセージであったことを知る。 まるで、山内戯曲に魅入られた末に、セリフの奥行きが乱反射する甘露な味わいに酔い痴れたがり、観客が山内の仕掛けた罠を全て解くことに快感を得ようとし始めていることを、するっと躱(かわ)すかの如き、ストレートなメッセージ。 果たして、いつまで待っていればよいのか。いや、山内ケンジがこう書くのだから、もしかしたら……。いやいや逆に、こう書いているのだから、きっと……。 そんな山内ファン、そして城山羊の会フリークの思いを、またまた、するっとしなやかに。城山羊の会、2年ぶりの新作公演「石橋けいの『あたしに触らないで!』」。 5年ぶりの出演となる城山羊の会のミューズ「石橋けい」に、山内戯曲における舞台上の立ち振る舞いが、男の色気と人間味を溢れんばかりに滴(したた)らせ、目眩を覚えるほどの魅力を放つ「吹越満」、そして城山羊の会の常連にして、映像の世界でのバイプレーヤーぶりに磨きがかかってきた「岡部たかし」や「岩谷健司」、更には「島田桃依」「岡部ひろき」「筒井のどか」に、ポツドールの看板俳優「米村亮太朗」が初参戦と、曲者が次から次へと天井から降りてくるが如く。 城山羊の会ならではの垂涎の俳優陣とともに、人間界が抱える「今」を、山内ケンジがどんな風に描くのか。 おそらくは、私の些末な想像力など、するっと、きっと目にも止まらず。そして、それを希望と呼ぶことができる、有難さを感じながら。 山内ケンジが、舞台上に、再び灯を燈し。 城山羊の会が、始まります。

20/11/22(日)

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