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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

【特別展】田中絹代 ー女優として、監督として

いま日本映画の歴史を読み直そうとすれば、その真ん中にいるのが大女優田中絹代である。ただ、この人物を「大女優」としてのみ遇することは、もうさすがに時代遅れだろう。この展覧会は、映画監督としての声望も国際的に高まる絹代さん(この方を「田中」と書く人はほぼいない)の現況に沿ったタイムリーな企画だ。 筆者は2009年、フィルムセンターで開催された田中絹代生誕100年記念の展覧会を担当したが、その頃はまだ「で、田中絹代ってちゃんと監督やってたの?」と、映画史の専門家から言われることもあった。私はすでに、監督第1作『恋文』の撮影現場でせっせと演出に動き回る絹代さんの写真アルバムを見ていたから、それが偏見であることは明白で、証拠もなしにそういうことを口走るのをセクシズムというんだなと思った。 その頃はまだ、それまでに出版された不必要にゴシップの多い評伝が、世の中で鵜呑みにされていた。あと、1949年に親善芸術使節としてアメリカに渡った史実は、帰国時の派手な身ぶりが「アメリカかぶれ」と非難されたいわゆる《絹代バッシング事件》ばかりで語られがちだった。だから、その使節自体の意義を正当に位置づけることも課題であった。 それから12年(実は同館では2011年にも絹代展を開催したが)、もはや古い史観は乗り越えられたと言っていい。フィルムの残存しない『浪花女』をスチル写真で語り切るという野心的な展示、地元鎌倉ならではと言える「絹代御殿」(実は正確には4軒あった!)の地理的検証など、ますます進化形の内容となっている。この展示は丸ごと外国へ輸出されてもいいと思う。今こそぜひ「2021年の田中絹代」を確認していただきたい。12月12日まで、いざ鎌倉へ。

21/11/21(日)

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