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水先案内人のおすすめ

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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

ジャッリカットゥ 牛の怒り

展開が読めてしまうジャンル映画には飽き飽きしたという人にお勧めの作品です。監督は視覚的なトリックと奇抜なアイデアで熱狂的なファンを擁するインドのリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ。ストーリーは肉屋で命の危機を察した牛が逃げ出し、暴走機関車と化して商店を次々となぎ倒しタピオカ畑を踏み荒らすのですが、時間の経過とともに村人の方が凶暴化し人間同士で醜い争いを始めるという黙示録にでも出てきそうなお話です。 古老が秘密を打ち明ける様にこう言います。「今でもこの土地は彼ら動物たちの物。あいつを見ろ、二本足だが中身は動物だ」。本当の獣は誰なのか?と問いかけているようにも見えます。表面上はバランスがとれていても、何かきっかけがあれば光が闇に暗転し、静寂から混沌、人間から獣、さらに平和から戦争へと動き出してしまうかも。世界は新型コロナ禍にあえいでいますが、いまこそ求められるのは人の感情と理性を疑い、非常時にも冷静沈着に対応しようとする胆力でしょうか。そんなことを考えさせる作品です。 ビジュアル的にも圧巻の仕上がりを見せるラストまで、まるで太古の空気を体感し続けているかのような気分にひたることができます。それを可能にしたのは人間の体を楽器替わりにして発声させるなどサウンドから美術、編集に至るまで各スタッフの工夫とこだわりが実を結んだからでしょう。監督以下の作り手の熱意が伝わって来ます。

21/7/11(日)

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