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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ハッピー・オールド・イヤー

近年、タイ映画がアジア映画圏のなかで台風の目のような存在であるとは、つとに指摘されるが、ナワポン・タムロンラタナリット監督の『ハッピー・オールド・イヤー』を観ると、その事実をまざまざと実感させられる。 バンコクのデザイナー、ジーンは留学先のスウェーデンで学んだミニマルなライフスタイルを実践すべく、母と兄と暮らす自宅をデザイン事務所にするリフォームを決意する。ジーンがカメラに向かって執拗に繰り返す「ミニマル」というフレーズが、時には耳障りなほどだが、余計なくだくだしい説明的な描写や台詞を周到に排した、その簡潔な語り口こそ、まさにタイ映画の最先端に位置する「ミニマリズム」という趣がある。 とはいえモノへの執着を断ち切り、黙々と断捨離を決行するジーンの果てのない饒舌と佇まいは、なまなかな共感を拒むところがある。ポスト・モダンな時代をクールに生きるヒロインだが、人は、ひとつひとつのモノにまつわる記憶からそれほどあっけらかんと自由にはなれないからだ。ノスタルジーにまみれた過去へ、過去へと向かう退嬰的な思考=嗜好こそジーンがもっとも忌み嫌うものだが、無意識の善意と悪意が微妙に交錯する元カレとの苦きエピソードによって彼女のエゴセントリックな内面が露わにされる。しかし映画はそんなヒロインの絵に描いたようなポジティブ・シンキングを時に辛辣に、時にはアイロニカルな視点で眺めつつも、モラーリッシュに断罪するような野暮なことはせずに、軽やかに肯定しているかのようだ。

20/12/8(火)

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