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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

浅草演芸ホール 2月下席「桂宮治 真打昇進披露興行」

筆者が従事する三鷹市芸術文化センターのオープンは1995年11月であり、その時から私は、演劇企画員という肩書のもと、演劇や落語や映画や古典芸能の企画運営を担ってきた。「三鷹のホールでしか観られない公演をやろう」とか「今現在の集客数に関係なく、自分が良いと思った劇団だけを招聘しよう」などの想いを、なんとなく不文律にして、幾つかの公演を実現していく中で、漠然と「いつかは手掛けたいな」と思っていた若手劇団フェスティバル「MITAKA ”Next” Selection」を始めたのが2001年2月。今年で22回目を迎えるこのフェスティバルの第一回を飾っていただいたのは「拙者ムニエル」「猫のホテル」「にんじんボーン」の3劇団だった。  それから10年以上の月日が流れ、その頃のいつものように、お芝居や、寄席や、映画館に通い続けていた私は、何度か、ある落語家さんの高座に出会い「ああ、この人はいいなあ」と思い始めるのだった。 桂宮治。 出てきただけで会場が明るくなり、喋り始めると一瞬で観客の心を掴まえていく。まだ前座や二つ目だったので集客が少ない時もあったが、客の多い少ないや会場の大きい小さいで、パワーが変わることは無かった。そのエネルギーに導かれて観客の頬は緩みっぱなしで、私自身何度も桂宮治の高座に魅入られるうちに、「ぜひ三鷹で」とお声をかけさせていただき、快諾していただいた。 2014年11月、三鷹市芸術文化センター星のホール『精鋭、二つ目の会。その壱。』出演:台所鬼〆、春風亭正太郎、桂 宮治、神田松之丞。 その公演の宣伝のために、4人の出演者にホールまで来ていただいて、インタビューをお願いすることとなった。収録当日、ホールの入口で待っていた私に、宮治さんは到着するなり、大きな声でこう仰った。 「星のホール! 久しぶりだなあ!」 私は驚いた。というか、しくじったのではないかという思いが脳内を駆け巡った。宮治さんは星のホールに初登場のはずなのに、もしかしたら過去に、どなたかの落語会の前座などでご出演いただいていたのではないかと。なのに私は「はじめまして」と名刺を渡し、出演交渉していたのではないかと。 一瞬言葉を失った私に、宮治さんは満面の笑顔でこう告げた。 「僕ですよ! 宮ですよ!」 2001年2月「MITAKA ”Next” Selection」第一回、劇団にんじんボーン。 役者、宮利之は、間違いなく三鷹の舞台に立っていた。 「あっ、宮さんでしたか」 「そうですよ、僕ですよ。やっぱり気付いてなかったんですね(笑)」 その演劇公演から10年近い月日を経て、役者・宮利之は、落語家・桂宮治になっていた。何度も高座で拝見していたのに、あの時の宮さんが、桂宮治さんだとは全く気が付かなかった。確かに、あの頃よりも少しだけふっくらされたかもしれない。でもまさか落語家になっているとは思いもしなかったことが、私の脳内のシナプスの伝達を妨げたのかもしれないと、今は思う。 <<<>>> その桂宮治さんが、今年の2月、晴れて真打昇進の時を迎えられた。前座・二つ目の頃のパワーはそのままに、語り口に磨きをかけて、披露目の興行が続く。間違いなく今後の落語界の一翼を担っていくであろう桂宮治の高座を、ぜひ、昇進披露の寄席で、味わっていただきたいと、切に思う。

21/2/24(水)

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