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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

空に聞く

東日本大震災は、記録映画の作り手たちを走らせずにはいなかった。各地の惨状に直面しながら無数の作品が作られたが、そこから私たちが学んだのは、そこに暮らす普通の生活者だった人たちが、もっとも私たちの魂を強く突き動かすスクリーン上の存在になり得るという事実だった。その最たる例が小森はるか監督の『息の跡』(2016年)であり、自分なりの「生きるペース」に従いながら、震災の記録をあえて外国語で記し続ける種苗店の店主を通じて、そのことを圧倒的なまでに教えてくれた。 その小森監督が、地域ラジオ局「陸前高田災害FM」のパーソナリティである女性を追った『空に聞く』を観るに及び、その確信はさらに強くなった。決してプロフェッショナルではないその阿部裕美さんの声は、何かのメッセージのために構築される声ではなく、「その後」の人々の日常のことばを率直に導き続ける声であり、そこには穏やかさや、悲しみや、りりしさや、人を思いやる心根や、あらゆるニュアンスが言外に含まれている。だから町の人たちが、同じ生活者として語る彼女の声を信頼しているのもよく分かる。 よくぞこの人を撮ってくれたという感謝の念に包まれ始めた頃、阿部さんはラジオパーソナリティをやめて元のお仕事に戻るのだが、そのナチュラルなたたずまいにまた惹かれる。このドキュメンタリーは、『息の跡』とともに、今後も長く伝えられる作品になるだろう。 なおこの映画は「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」として、毎年製作される映像作品の一つである。助成金の支給ではなく主体的に映像作家の仕事をプロデュースするこの稀有な制度は、全国的にもっと知られてもいいと思う。

20/11/16(月)

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