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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

旅のおわり世界のはじまり

「おわり」と「はじまり」。考えてみれば、あらゆる事象において、このふたつは常に隣り合わせにあるものなのではないか。わたしたちはドラマティックな事態に遭遇し、己もまたドラマティックな状態にあると錯覚する。心身がそのようなとき、物事の「おわり」もしくは「はじまり」、どちらか一方だけを見つめるのが人間の性であり、それが躁やら鬱やらと呼ばれるものを引き起こしている。 だが本来それらは、同時に存在する。「おわる」から「はじまる」のであり、「はじまった」から「おわった」のである。言い換えるなら、「これまで」と「これから」をつなぎ、断ち切るように「いま」は進んでいく。 本作における前田敦子の顔が理屈を超えた感動を呼ぶのは、その顔に「おわり」と「はじまり」が等価のまま刻印されているからである。「わたし」という旅がおわり、「わたし」という世界がはじまる。それは到達点でもなければ、出発点でもない。通過点である。ひとの人生に点在する、決定的な通過点を前田敦子はかつて見たことのないリアルを従えながら体現している。黒沢清が織り込んだ描写、構造、物語すべてをのみこんで、なおも悠然としている。 そしてこのタイトルは、前田敦子そのひとのことにも思える。 映画史に前例のない稀有な女優である前田敦子という「旅」はいま、おわった。そうして、前田敦子という「世界」が、これからはじまるのである。顔は未来の予告である。

19/6/10(月)

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