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白坂 由里

アートライター

塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記

熊本県八代市生まれの塔本シスコは、53歳のとき独学で油絵を描き出し、2005年に91歳で亡くなるまで絵筆を握り続けた人だ。小学4年生の頃に家業が傾き、農作業や子守のために退学。奉公先で働いているから美術教育を受ける機会には恵まれなかった。20歳で結婚し、太平洋戦時下で長男、終戦後に長女が生まれ、飼っていたスズムシや金魚などを子供たちとスケッチしていたという。46歳の時、ダム建設現場の厨房で働いていた夫が事故で他界し、喪失からのリハビリのため、石を削って女神像などをつくっていた。そして1966年のある日、画家である息子が実家に残した油絵の絵具を削って絵を描いてしまう。その才能に驚いて、母を支える決意をした息子もあっぱれだと思う。 この原稿では「シスコさん」と呼びたいのだが、シスコさんは、庭に植えていたカボチャや花、ネコなど身近なものに好奇心を持って描き続けた。近所の公園でスケッチした時に、色々なことが多くて何を1番に描くか決めるのに時間がかかった、ということを書き残している。その絵は梅の花がびっしりと大きく描かれているのだが、奥や手前に、遠足の小学生や猫と散歩する親子、スケッチや写真撮影する人(自分たち?)も描いている。 シスコさんの絵は生活日記のように、人が自然の一部になって、大きなキャンバスに、時にぐるぐると回して描かれ、どちらが天地でもいいような不思議な世界が生まれている。たくさん泣いた人だから、公園の風景を「よかよか」と思って描いたのではないだろうか。その身に浸透してきた、生きものとしての体験が喝采のように溢れている。

21/10/29(金)

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