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クラシック、歌舞伎、乱歩&横溝、そしてアイドルの著書多数
中川 右介
1960年生まれ、作家、編集者
この世界に残されて
20/12/18(金)
シネスイッチ銀座
静かな映画だ。 中年の医師と少女の2人を中心に、日常を淡々と描く。だが俳優たちの、リアル、というよりナチュラルな演技で、退屈そうな日常がドラマとして成立している。 第二次世界大戦後のハンガリーが舞台で、ナチスのホロコーストを生き延びたユダヤ人たちの物語だ。医師は妻子を、少女は両親と妹を亡くし、自分だけがこの世界に残された、そんな意味のタイトル。 ハンガリー人には説明がいらないのだろう。ホロコーストのことは映画のなかでは説明されないので、少しは予備知識があったほうがいい。ハンガーをはじめ東欧はドイツとロシアという強国にはさまれ、常にどちらかの支配下にあった歴史を持つ。この映画が描くのは、ナチスによる支配が終わり、ロシア(ソ連)の支配下に入ろうとしている時代。 東欧諸国が自由と民主主義を得るのは1989年の東欧革命まで待たねばならない。それから30年が過ぎ、過去を「大事件」「大悲劇」としてではなく「日常」として描く映画がつくらているのは、感慨深い。
20/12/15(火)