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この映画を観ると世界がわかるという作品を
池上 彰
1950年生まれ ジャーナリスト、名城大学教授
ユダヤ人の私
21/11/20(土)
岩波ホール
初めに明らかにしておきますが、これは躍動感のある映画ではありません。しかし、貴重な資料映像も挿入されています。かつてナチスによって強制収容所に入れられたユダヤ人が、終戦から74年経っても語り続けてきた悪夢の物語です。 語り部の男性のマルコ・ファインゴルトはオーストリア人。オーストリアは、ドイツによって併合されました。この歴史だけ見ると、オーストリアは被害者のように思われますが、実際には多くのオーストリア人がナチスを歓迎し、ユダヤ人虐殺に手を貸したのです。 彼のまわりの人々があっという間に反ユダヤ主義の波に呑まれ、ナチスのユダヤ人狩りに協力しました。戦後、ドイツはナチスの犯罪を追及しましたが、オーストリアは、そうはなりませんでした。ナチスに協力した人たちが、戦後、出世の階段を上っていったのです。 それを指摘し糾弾したマルコは誹謗中傷の攻撃を受けます。まるでユダヤ人虐殺などなかったかのように。歴史を直視することの大切さを、この映画は語ります。
21/11/16(火)