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水先案内人のおすすめ

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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

逝ける映画人を偲んで2017-2018

『ゆけゆけ二度目の処女』 (7/26、8/18) 国立映画アーカイブ 特集「逝ける映画人を偲んで2017-2018」(7/20〜8/26)で上映 原宿にセントラルアパートという伝説的なマンションがあった。現在の東急プラザ表参道原宿の場所に1958年に建てられた地上7階、地下1階の高級マンションである。先ごろ出版された70年代の原宿文化について書かれた『70s原宿原風景 エッセイ集 思い出のあの店、あの場所』(中村のん編著/DU BOOKS)にも、セントラルアパートについて一章が割かれている。といっても、建物よりも住人によって伝説化されたといっていい。グラフィックデザイナー、プランナー、カメラマン、雑誌編集部等々、各分野のクリエイターが事務所を構えていた。その中でひと際異彩を放ったのが、563号室の若松プロダクションである。 映画監督の若松孝二が主催するこのプロダクションから先鋭的なピンク映画が量産されたことは昨年公開された白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』(2018)でも描かれていたとおりだ。門脇麦が演じるヒロインを若松プロに誘い、最も親しく打ち解けるのが秋山道男である。 後に無印良品やチェッカーズのプロデュースをはじめ多彩な活動で知られるようになる秋山道男は19歳で若松プロに出入りするようになり、助監督、俳優、ポスターや音楽制作など早くも八面六臂の活躍で若松映画を支えた。その秋山が主演した『ゆけゆけ二度目の処女』(1969)は、セントラルアパートのみを舞台にした映画という点でも異色の1本だ。 屋上に通じる扉を閉めてしまえば天に向かって開かれた屋上は密室になる――。足立正生の脚本は、5階の若松プロから屋上へ上がるだけで映画が撮れてしまうという低予算映画に必須の効率性と、映画的な独創性を兼ね備えたもので、少女がフーテンたちにマンションの屋上へ連れ込まれて輪姦され、それを眺めていた少年と少女が屋上で死をめぐる対話を続けるという内容だ。秋山が演じるのはこの少年である。 観念的に思えるかもしれないが、若松は映画的な空間の造形に抜群の能力を発揮するだけに、無機質に思える屋上を塔屋や貯水タンクなども巧みに取り入れて広がりのある舞台に変貌させてしまう。また屋上から周辺の風景を見下ろすことが出来るのも貴重で、道を挟んだ向かいに建つ教会(東京中央教会東京伝道センター)は今のラフォーレ原宿である。若松映画を政治的に読み解いたり、時代性の表出として観るのも良いが、セントラルアパートという場を記録した映画として観るのも悪くない。今回の特集ではニュープリントで上映される。

19/7/24(水)

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