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水先案内人のおすすめ

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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

イメージの洞窟  意識の源を探る

東京都写真美術館が、「写真」の名こそついているが、かねてから動的な映像作品に大きな比重を置いているのは周知のことだろう。この展覧会においても、志賀理江子やゲルハルト・リヒターといった写真家の仕事と並んで、かつて同館でも取り上げたフィオナ・タンによる2003年のビデオ作品《近い将来からのたより》(9分30秒)が上映されている。 「近い未来」とはいうが、そこで見られるのは、オランダの映画アーカイブのコレクションからタンが見つけてきた、無声時代の記録フィルムの断片ばかりだ。ここにあるのはすべて水に関わる映像だ。洞窟から水辺へ降りてゆく人、川の上の水泳大会、大瀑布を落ちてゆく水、荒海の中を苦闘しつつ進む船、そして水浸しになった都市……。だが、なぜこれらが「近い未来」からの便りなのだろう? 日本もつい先日、大きな水害に見舞われたばかりだ。一世紀まえも現在も、水の脅威の前に、人間は同じ苦闘を繰り返している。滝は今日も明日も激しく流れ落ち、人は今も船に乗って海を渡る。その意味では、遠い過去のアーカイブ映像も、私たち自身の映像であり、次の時代を生きる人々の映像なのだ。画面が傷だらけであることや、無声時代によく行われたフィルムの染色やステンシルによる彩色といった現代との技術的な差異を超えて、これらの映画は“私たちに属している”。その認識のもとで、3回ぐらい連続でゆったりと眺めてみることにも意義はあるはずだ。11月24日まで。

19/11/12(火)

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