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水先案内人のおすすめ

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演劇鑑賞年間300本、記者歴40年のベテラン

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

こまつ座『雨』

どんでん返しは井上ひさし戯曲の十八番だが、江戸三部作の一つ、『雨』はその中でもアッと驚く大どんでん返しが最後に待っている。 主人公は江戸のしがない金物拾いのスケベエ男、徳。やって来たのは紅花が美しく咲く東北は平畠藩。そこの紅花問屋の当主が失踪中。自分と瓜二つなのを幸いに替え玉となり、甘い汁を吸おうとする。これが一人の男の「欲」だ。 当主の美しい女房で女将おたかは、店の連中と藩と何か謀略を巡らしている。これが集団の「欲」。さらにその背後には幕府という権力の「欲」が控えている。 『雨』が傑作なのは、物語展開の面白さだけに限らない。江戸から東北へ入った徳は言葉の壁にぶつかる。東北方言は現代でも関東人には外国語のように聞こえるものだ。 徳は、欲が欲を産み、自分を見失っていく。演じるのが初役の山西惇。あるインタビューで「見終わった後、見た人が思わず深く息を吐いてしまう。そんな作品にできたら」と語っていた。倉科カナが女将。かつてこの役を演じた木の実ナナが徳の股間に手を入れて驚く場面で笑ったっけ。他に久保酎吉、木村靖司、前田亜季。おっと、井上さんが名優だと言った花王おさむ。役者は揃った。演出が栗山民也。好舞台は、間違いないっしょ。

21/9/17(金)

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