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植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ジョーンの秘密

テレビ時代劇『隠密剣士』、マンガ『伊賀の影丸』、映画『黒の試走車〈テストカー〉』『陸軍中野学校』などで“日本のスパイ”の存在を知ったのだが、何となく絵空事。“リアルなスパイ”について教えられたのはジョン・ル・カレの『寒い国から帰ってきたスパイ』、グレアム・グリーンの『ヒューマン・ファクター』など欧米の“スパイ小説”だった。一番親しんだのはイアン・フレミングの『007』とその映画なのだが……。 本作『ジョーンの秘密』は、ユルユルの邦題(原題:Red Joan)からは想像もつかない本格的な厳しい内容のスパイ映画。といっても、ドンパチやアクションは皆無。スパイたちの真摯で苦悩に充ちた人生が活写されている人間ドラマだ。 夫に先立たれ、仕事も引退したジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ)は、イギリス郊外で穏やかな一人暮らしを送っていた。ところが、2000年、ジョーンは突然MI5に逮捕されてしまう。半世紀以上も前に、核開発の機密情報をロシアに流したというスパイ容疑だった。 彼女は無罪を主張するが、先ごろ死亡した外務事務次官のW・ミッチェル卿が遺した資料から、彼とジョーンがロシアのKGBと共謀して情報を流していた証拠が出てきたというのだ……。 次々と明かされるジョーンの驚くべきスパイ活動。仲間や家族を裏切ってまで、彼女は何を守ろうとしたのか。 本件でイギリス国民を最も驚かせたのは、その容疑をかけられた人物が平凡な80代の老女であったという事実だ。 ジョーンに扮した大ベテラン女優ジュディ・デンチ、監督はトレヴァー・ナン。両者ともシェイクスピア劇の大女優と大演出家という組み合わせが、意表をついて興味深い。 ヒロシマ、ナガサキの被爆もドラマの一大要素になっている本作は、“スパイ”とは何かを考えさせられるスパイ映画だ。

20/8/3(月)

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