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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

クナシリ

そこは美しく雄大な風景が広がっているものの、時代に取り残され「展望なき停滞」とでも呼ぶべきどんよりとした空気に包まれていました。日本がロシアに返還を求めている北方領土のひとつ、国後島で旧ソ連(現ベラルーシ)出身のウラジーミル・コズロフ監督が、戦後76年たった現在の島民の暮らしだけでなく、思わぬ本音を聞き出したドキュメンタリーの傑作です。 本作には(ソ連側の)戦勝記念日のパレードや国後島侵略場面の再現シーンらしい映像が流れます。それは日本側が軍事力をもって領土を取り返すのではないかという懸念を前提にしているとしか考えられず、仮に実行すれば結果は計り知れない対価を払うことになることを想定できる現状からはナンセンスとしか言いようがなく、また登場する住民の緊張感のない表情にも苦笑するばかりです。 アジアからヨーロッパまでまたがる広大な国土ですからやむを得ないかもしれませんが、島民の一人が苦情をこうこぼします。「日本人の下水道は見上げたものだった。なのにわれわれのトイレはこのありさま、ほったらかしだった。(役所に)文句を言うと、自分でやったらと担当者に言われた」。 意外だったのは住民の本音と思われる日本への期待です。「条約を締結すれば雇用が生まれる、観光業を発展させたい」。映像では複数の島民が語っているので、むしろ「(平和条約締結や領土返還交渉など)議論の余地はない」と発言し続けるプーチン大統領や地元知事らの方が政治的発言に聞こえます。 一方、映像には珍しい黒い泥状の温泉に気持ち良さそうに浸る男性2人や犬ぞり、「日本丸」の船名が読み取れるロシア側に贈呈された船も登場します。 日本からわずか16キロしか離れていないこの島に2019年5、6月、フランスから飛行機を4回乗り換えオホーツク海を2度航海してようやくたどり着いた国後島。同監督の次回作は今回とは逆に根室側から見た「こんなに近くてこんなに遠い」をスローガンにした内容になるそうです。次回作も期待しましょう。

21/11/26(金)

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