Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

コロナウイルスのせいで、過去のことが実際以上に遠く思われてしまう昨今だが、名優ブルーノ・ガンツの逝去もまだほんの一年ちょっと前のことなのだ。日本は彼を、『ベルリン・天使の詩』でベルリンの空を漂う寡黙な天使としてまずその姿を記憶したはずだが、その後はヒトラーに扮したかと思えば「アルプスの少女ハイジ」の老爺だって演じてしまう。 そしてガンツは、その遺作でかの心理学者ジークムント・フロイトを演じた。1937年、ドイツとの併合で世情が急速にナチの色に染まってゆくウイーンが舞台だが、フロイトは心理学者の顔ではなく、知性を漂わせたタバコ店の常連という顔で現れ、そこで見習いをするようになった17歳の少年と仲良くなる。 新聞やらタバコやらを何げなく、しかしプライドを持って売り続ける小さな店のたたずまいがいい。だからこそ、店への迫害がひどく痛々しく感じられ、この小さな世界から大きな世界の変貌を知る少年の戸惑いがクロースアップされる。あっという間に「ナチ化」されてしまう街のキャバレーもまた忘れがたい。そして改めて、とことん幅の広いブルーノ・ガンツという役者の味わいに気づかされる一本だ。

20/7/20(月)

アプリで読む