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注目されにくい小品佳作や、インディーズも

吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

生誕100年 映画女優 山口淑子

『人間模様』(12/13・12/22)国立映画アーカイブ「生誕100年 映画女優 山口淑子」(12/12〜27)で上映 撮影所時代の映画監督は、デビュー作で突出した傑作を撮らないかぎり、与えられた企画をヒットさせるか、自分の個性を上手くまぎれこませて特色を出さなければ、埋没してしまう。それ以前に、助監督からいつ監督になれるかも重要な問題だった。 東宝争議で紆余曲折の末に新東宝へと参加することを決めた助監督時代の市川崑だが、その理由を映画プロデューサーの伊藤武郎は『戦後日本の争議と人間』の中で、「あっち(新東宝)にいったほうが早く監督になれるという野心」があったのではないかと推測している。 新東宝移籍後、32歳で劇映画監督第1作を撮ることになった市川崑が、最初に希望した企画は『細雪』だった。当然、新人監督の手にあまる大作だけに企画は通らず、実現は30数年後まで待たねばならなかった。 結局、野上弥生子原作の小品『花ひらく 「眞知子」より』を撮ることになったが、地味なメロドラマになりかねなかったものの、市川の師にあたる阿部豊がプロデューサーとして名を連ね、高峰秀子、上原謙が主演して新人監督の門出に華を添えた。 幸いデビュー作が好評だったことから、市川は第2作に芥川龍之介の『偸盗』を、『羅生門』という題名で映画化する野心的な企画を提案した。もちろん、黒澤明が同名の映画を撮る前の話である。しかし、これもまた予算がかかることから、まずはこっちを先にとプロデューサーから提案されたのが、大メロドラマ『三百六十五夜』だった。小島政二郎の原作を一読して馬鹿らしいと放り投げそうになった市川だが、それでも何とか観られるものにしようと工夫し、『三百六十五夜 東京篇・大阪篇』の二部作として公開すると、これが予想外の大ヒットを記録した。 その結果、メロドラマを得意とする若手監督ということになり、3作目の『人間模様』も、同様のメロドラマである。 私学校長の息子(上原謙)が、警察に引っ張られた友人の社長とその秘書(山口淑子)を救ったことから、秘書はその息子に惹かれてしまい、そこに社長や情夫との関係もかかわってくるという物語だが、脚本には市川の妻であり、後に脚本家として名を成すことになる和田夏十が初めてクレジットされている(この時点では市川と妻の共同ペンネームだった)。 初期の市川作品を語る上で欠かすことができない怪優・伊藤雄之助が初めて登場した作品でもあり、山口の情婦である伊藤が現れると画面が突如として傾き、コップから水がこぼれるというオーバーな演出が笑わせる。つまりは、フツーに撮るのを良しとせず、妙な仕掛けを用意して、単なるメロドラマでは終わらせないという自意識が随所に見て取れる。 いっぽうで、上原謙のぼんやりとしたキャラクターは、後に市川が手掛けることになる金田一耕助の原型とも思えるだけに、才能が未完成の時期の初期作品には、歪ながらも原点が見え隠れするだけに、新鮮な発見がいくつもある。

20/12/10(木)

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