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堀 晃和
ライター&エディター。記者歴27年、元産経新聞文化部長。映画と音楽と酒文化が守備範囲。
シチリアーノ 裏切りの美学
20/8/28(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町
映画界には多くの巨匠がいる。存命の中からイタリアで一人を選べと言われれば、マルコ・ベロッキオ監督(80)を挙げる。間違いなく世界の巨匠だ。 新作は事実を基に、自国のマフィアを描いた壮大な物語となった。1980年代、マフィア数百人が一斉に逮捕される。きっかけを作ったのが本作の主人公トンマーゾ・ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)だった。シチリアの巨大犯罪結社「コーザ・ノストラ」の大物ブシェッタは海外ビジネス拠点のブラジルで暮らしていたが、麻薬をめぐって対立するコルレオーネ派に、イタリアにいる仲間や身内が次々と殺されてしまう。自らも当局に逮捕され、本国に送還されたブシェッタは、マフィア撲滅に命を懸ける判事に次第に心を開き、協力者となる。 凄惨な光景を独特の視点で撮った演出も見所だが、圧巻はブシェッタが証言する法廷のシーン。逮捕されたマフィアたちが見守る中、信念に従って言葉を紡ぐブシェッタの瞳が魅力的だ。 「ますます孤立し決して妥協を許さない映画」。『イタリア映画史入門』(鳥影社、2008年)に、近年のベロッキオ作品に対する記述がある。涙腺を安易に刺激しない作風で、観客を魅了し続ける。
20/8/27(木)