評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。
春日 太一
映画史・時代劇研究家
クローブヒッチ・キラー
21/6/11(金)
新宿武蔵野館
全編を冷たく重い空気がまとわりつくスリラー映画だった。 10年前に起きた連続猟奇殺人事件。ひょんなことから目にした証拠品の数々から、少年は自分の父親が真犯人ではと疑うようになる。 といって、この作品が恐ろしいのは、事件そのものや謎解きではない。物語の焦点も、途中からそこではなくなる。 何より恐ろしく描かれているのは、舞台となる町だ。 町の多くの住民が敬虔すぎるキリスト教徒で、強い道徳的規範に囚われている。そこから外れた人間は異端として扱われ、周囲から爪弾きに遭う。主人公も、彼に協力する少女も、勝手な噂を立てられて孤立してしまう。 そんな小さな田舎町ならではの厭な偏狭さを、BGMを極力排した淡々とした日常描写の連続が不気味に切り取っていた。 真犯人を凶行に駆り立てたのも、この町を支配する性的抑圧によるものが大きいのだろう……そう思わせるだけの世界が生々しく映し出されていた。
21/5/31(月)