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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

荒木悠展 : LE SOUVENIRS DU JAPON ニッポンノミヤゲ

フランス軍海軍士官ピエール・ロティによる日本紀行『秋の日本』を核にした荒木悠の個展に触れて、文化とは誤解と誤読の連続によって伝播していくと改めて実感。鹿鳴館での舞踏会を描いたロティの短編「江戸の舞踏会」に基づく映像作品では、それぞれiPhoneを持った西洋人男性と日本人女性が互いを撮影しつつ、しかしできるだけ自分は撮されないように振るまいながら踊る。いかにも楽しげに繰り広げられる、「見る」行為に潜むパワーゲーム。しかも、彼らの見ている風景は同一ではない。瞳のメラニン色素の違いによる西欧人と日本人の色覚の微妙なズレが、それぞれが撮す映像に織り込まれている(西欧人はマゼンダに、日本人はグリーンに感応しやすいと言う)。 そしてロティの訪れた場所を荒木がたどる作品では、京都の陶磁器店のごた混ぜ品揃えに「どこまでが玩具で、どこまでが神様なのか、日本人自身にわかっているだろうか?」というロティの一文に土産物店のご当地キティが、日光東照宮とゴシックの大聖堂に言及した一文に東武ワールドスクエアのノートル=ダム大聖堂が映し出され、思わず吹き出してしまった。近代化に邁進する日本を軽蔑していたロティの想像の遙か上を行く、現代日本のまぎれもない爆笑ものの断面。 さらに、資生堂創業者・福原信三のラフカディオ・ハーン邸の階段を撮した写真(ハーンと福原、2人とも西洋と東洋の文化に根ざす活動を展開した人物だ)と、その手前の階段箪笥(怪談とダンスの語呂合わせ!)。文化交流のシヴィアな歴史に諧謔を織り交ぜた、シリアスながらも微笑ましい作品空間だ。

19/6/8(土)

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