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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話

耳切事件後のゴッホの肖像画「包帯をしてパイプをくわえた自画像」を自ら演じた≪肖像/ゴッホ≫(1985年)以降、マネやレンブラント、フリーダ・カーロなど西洋美術だけでなく日本美術にまで視野を広げ、美術史上の名画名作に「なる」ことを通して「美術とは」「絵画とは」「イメージとは」という本質的な問いを作品化し続けてきた森村泰昌。 今回改めて青木繁の≪海の幸≫と向き合う。青木の「自画像」には「自画像/青春」シリーズ(2016年)ですでに試みられていたが、森村が高校の美術部で夏休みに海を描いていた記憶と、東京美術学校を卒業した年の夏に千葉県の布良海岸で海を描みつめていた青木の体験が重ね合わされ、この展覧会に結実した。 青木の≪海の幸≫が現代の私たちに何を伝えてくれるのか。青木の≪海の幸≫を日本の近代化のプロセスと重ね合わせ、森村独特の史的解題作業を通して彼自身の作品へと再編成していく。近代化の黎明期のシンボルとしての≪海の幸≫から明治・大正・昭和・平成を経てありうべき未来へと、「海」をキーワードとする森村の壮大な近代史の視覚化。 本来なら数多くのスタッフとともに作り上げる森村作品だが、コロナ禍の2年間ゆえメイク、着付け、照明、撮影まで全て独りで85人の人物に成り切って完成した『M式「海の幸」変装曲』10点は圧巻! 「海の幸」の森村バージョン第1番のタイトルは青木の文集「假象の創造」、明治期の洋装の軍人と貴婦人による第2番は夏目漱石の「それから」、古賀春江の「海」を背景に大正から昭和の戦争期の女性たちを取り上げた第3番のタイトルは江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」、藤田嗣治の「アッツ島玉砕」を背景とした第4番は野間宏の「暗い絵」等々、空襲の焼跡や1964年の東京オリンピック、大阪万博、バブル期の東京へと各時代を象徴する人々の姿と情景、文学作品のタイトルが展開していく。 最後の≪豊饒の海≫では海を背景に銛を掲げる金色に彩られた遮光器土偶。過去・現在・未来の道行きは円環を描く。見る人の想像力によって意味の層が無限に厚みを増していく作品群。第4章の映像作品「ワタシガタリの神話」の中の言葉、「我々はどこへ行くのか....../海さえ死なんかったら、かならず日はまた昇るんやろなあ」。 近代化の限界がコロナ禍によって暴きだされた現在、しみじみと胸に滲み透る言葉を味い尽くしたい。

21/10/13(水)

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