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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

凱里ブルース

年間ベストテンを考えるには早すぎますが、間違いなく今年見た作品のベストワンです。 なぜなら、監督のビー・ガンは2月末に日本公開されたばかりの『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』で3Dのワンシークエンスショットという演出が世界中の映画制作者やファンから注目された中国の新世代監督。その彼が弱冠26歳の2015年に撮った初長編監督作品だからです。 年若い俊英が映画を作ることの喜びを発散させているような勢いを感じさせます。本作でも3Dこそありませんが、後半40分にわたるワンシークエンスショットは日中の自然光を生かした映像が震えるほど美しく、また通常ならカットを変える場面でも流れをつないでいくために役者とカメラが“頑張っている様子”がうかがえるなど、映画本来の手作り感を楽しむことができます。その点、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は流れも滑らかで、2作品を見比べることで監督をはじめとするスタッフ陣の演出や撮影の腕が洗練されてきたのだと実感することもできるでしょう。 物語は一見シンプル。凱里の小さな診療所で働くチェンは刑期を終えて帰ってきますが妻はこの世になく、可愛がっていた甥も何者かに連れ去られています。チェンは同じ診療所で働く年老いた女医のかつての恋人を捜す旅に出ますが、その途中に立ち寄った村は、過去の記憶や現実、夢が錯そうしているように見えます。 作品には監督の遊び心が詰まっています。甥が手や紙に描いた時計は時間のゆがみを象徴するかのように逆回りし始めます。家の脇を駆け抜ける列車はよく見れば壁に大きく映されたもののようです。チェンは捜し求めていた甥らしき青年にようやく出会い「夢か?」とつぶやきますが、観客の中には「(いつの間にか歳を取っているので)玉手箱を開けたのか?」と言いそうな人もいるかもしれません。単純そうで作品は奥が深いようです。 そのほか、映画のタイトルやキャストの紹介をちょっと工夫してお洒落に見せたりするなど、見どころはたくさん用意されています。この2作を見ても監督の映画作りへのこだわりは相当なものとうかがえ、早くも次回作への期待が高まります。

20/6/3(水)

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