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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています
相田 冬二
ライター、ノベライザー
NO SMOKING
19/11/1(金)
シネスイッチ銀座
半世紀にわたる細野晴臣の音楽キャリアを薄切りの生ハムのようにスライスしながら、変わることのない息吹きで21世紀を行進=更新していく最新の姿を視界におさめる。 つまり、過去と現在が往来するのだが、時制を行ったり来たりすることに矛盾も違和感もなく、すべては細野の朗々とした仙人のごとき声の音色に統合され、聴いていると、ほんの拍子に三途の川さえ渡ってしまいそうになるくらい、危うい心地よさに連れ去られる。 文字通り、時空をこえるインタビューの響き。その無限に円環を描きつづける様は、まさに音楽そのものだ。だから、このドキュメンタリー最大の見どころは、レア映像やライブパフォーマンスなどではなく、この音楽家が話している姿である。 たとえば彼が、YMOの解散について、どのようなことばを選び、どのようなトーンで、どのようなニュアンスで語っているか。佳い曲を耳にしたときのような、理由を超えたときめきが、ふっと降り立つ。誠に贅沢な映画である。
19/10/30(水)