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水先案内人のおすすめ

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注目されにくい小品佳作や、インディーズも

吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

市川崑 初期ライト・コメディの誘惑

『結婚行進曲 WEDDING MARCH』(3/28)  新文芸坐「市川崑 初期ライト・コメディの誘惑」(3/25〜3/31)で上映 数々の名作を撮った大映時代や、『犬神家の一族』以降の70年代後半から80年代をキャリアのピークのように語られがちな市川崑だが、私見では1951〜54年にかけての東宝時代こそが、実験性と洗練さを併せ持つ最良の時代ではなかったかと思う。そのなかでも伝説的なスクリューボール・コメディの傑作『結婚行進曲』は、通販のビデオが一度出たきり、DVDも配信もされていないレア作である(今回の上映も国立映画アーカイブからフィルムが貸与された)。 作家志望の伊野(伊豆肇)は、本業が気もそぞろのためクビになってしまう。恋人のカナ子(杉葉子)が憤り、伊野の上司・中原(上原謙)に直談判するが、理路整然と速射砲のごとく抗議するカナ子にすっかり関心した中原は彼女を雇うことにする。ふたりの接近に伊野と中原の妻(山根寿子)がヤキモキし、4人の恋愛混戦が始まる。 映写機の回転が速いのではないか?と観客が驚いたのが登場人物たちの早口。この手法は庵野秀明も『シン・ゴジラ』で試みていたが、早口で喋ることで映画をテンポアップさせ、俳優に感情過多の芝居をさせないための方法でもある。特に杉葉子は舌を噛みちぎらんばかりの早口でまくしたてることで、狂騒的喜劇を盛り上げる。 営業成績を示すグラフが画面のてっぺんまで伸びると、そこで突き当りになって折り返すギャグや、映画館で成瀬巳喜男の某名作を観る上原謙の表情も見ものだが、越路吹雪が本人役で登場し、『ビギン・ザ・ビギン』を唄い踊るシーンが忘れがたい。こうした本筋には関係ない枝葉末節の充実が、本作の魅力をいっそう豊かに輝かせる。 ただ騒々しいだけではなく、陽性の杉葉子と対照的な中原の妻・島子の冷ややかな引いた視点がドラマに奥行きをもたらし、ハリウッドのロマンティック・コメディ顔負けの見事なラストシーンも、彼女の存在があるからこそ映えるものになっている。  

21/3/27(土)

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