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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

草の響き

もはや新人などとは到底呼べぬ豊潤なキャリアの持ち主であるにもかかわらず、新しい映画の初登場シーンを前にしたとき、みずみずしい戦慄に打ちのめされる。それは、息もできなくなるほどのときめきと言い換えてもよい。 東出昌大と、とりあえず呼ばれているらしい、その現象が、またしても次の段階に入ったことを宣告するのが、本作である。 精神の彷徨い、魂の迷い子。そのような主人公を、主観にとらわれることなく、さりとて、客観に支配されることもなく、どちらでもあって、どちらでもない独自の領域を発見、開発、成長させ、枯木に花を咲かせてしまうこの俳優が、その演技表現を通して、わたしたちに何を語りかけているかを想像するならば、場合によっては失神も覚悟せねばなるまい。 途方もない、とはこのことだ。 そして、驚くなかれ。ここでの東出昌大は、人間ならざる者を演じてそのように感じさせるのではなく、どこまでも人間的な人間のヒューマニティそのもので、わたしたちに眩暈を引き起こすのだ。 原作者のことも、撮影された場所のことも、うっかり忘却の彼方に飛んでいってしまうほど、『草の響き』の東出昌大は、容赦ない。

21/9/21(火)

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