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水先案内人のおすすめ

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ギャラリーなどの小さいけれども豊かな展覧会・イベントを紹介します

白坂 由里

アートライター

生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙

2009年のグループ展『Stitch by Stitch 針と糸で描くわたし』でも思ったが、アール・デコ様式の旧朝香宮邸(1933年建設)と現代美術の相性はよい。今回はインパクトのある作品が多いなかで、佐々木愛の仕事が印象に残った。建物にアプローチする作家はこれまでも多かったが、庭園の生態系をリサーチして作品に昇華した作家はほとんどいなかったのではないだろうか。美術館名にもなっているのに灯台下暗しというか、目から鱗だった。 まず、鳥や植物が織りなす風景を表した2点の白い漆喰彫刻。絞り出しを使って描かれたレース編みのような繊細な線、その左官技術に驚く。大きな窓と扉から室内に自然光が差し込み、立つ位置や時間帯によって見え方が変わる。 モチーフは、美術館に保管されている朝香宮建設時の資料から、在来植物と植樹した植物を調べ、現在の庭の管理人にも話をうかがったという。建設時の野鳥は資料から、昭和以降に美術館エリアに生息していた鳥は美術館隣の国立科学博物館附属自然教育園にある資料も参考に。また、クジャクや池、朝香宮家ご家族が映る映像も参照し、イメージを膨らませていったそうだ。 なお、妃殿下寝室に設置した小さな木彫の赤色は、倉庫に残っていた寝室の壁紙の色に合わせたそう。当時フランスから取り寄せたという家具の上に置かれている。ラジエーターのデザインは妃殿下自らスケッチしたらしく、建築と自然を一体として装飾を夢見たのではないかと思ったりもする。まずはこの地に息づく生命の推移について、そこから見知らぬどこかへと思いを馳せた。 また、出品作家の一人で2月に他界した康夏奈のインスタレーションは、生前のプラン通りに展示されている。海の子ども、山の子どものような人で、今は宇宙からこの展示を見ているような気もする。ご冥福をお祈りします。

20/12/20(日)

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