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白坂 由里
アートライター
「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展
20/8/27(木)~20/12/29(火)
銀座メゾンエルメス フォーラム
与那国島で出会った少女と馬が凛として美しい。天井から垂れ下がる藍染めが、海風のアコーディオンのように揺れる中で、その映像は流れている。野を歩き、海をゆく馬。 オランダのアーティスト、シャルロット・デュマが、2014年から日本の在来馬について、北海道、長野、与那国島など8カ所をリサーチしながら撮影した写真や映像などが展示されている。人間と動物の関係性について原始にさかのぼって考える視点から埴輪や馬沓(蹄に履かせる藁製のカバー)なども併せて構成されている。 「ベゾアール」とは、動物の胃腸の中に形成される石のことで、『ハリー・ポッター』の映画でも言われていたように、かつては解毒剤として珍重されていたそうだ。展示されているのは、古代の宝飾品やお守りのような白い球体で、その反面、こんな重そうなものが体内にできてしまったら確かに生きてはいられないと思う。デュマは、そこから生物と宇宙とのつながりや、「すべての命には等しく終わりがある」という示唆を受けている。 また、デュマの息子が、馬のぬいぐるみのような服をまとい、与那国島まで馬に会いに行く映像『依代』はファンタジックで愛らしい。ちなみにこの服と藍の布は、デュマが長年コラボしているキッタユウコが制作。デュマ自身は新型コロナウイルスの影響で来日できなかったが、建築家の小林恵吾と植村遥が、旅の軌跡を受け取る空間に仕立てていて楽しい。 生物学者・哲学者ユクスキュルの『環世界』に照らして、馬に見えている世界はどんなだろうかと想像してみると視野が広がる。
20/10/5(月)