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水先案内人のおすすめ

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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

はちどり

「中学2年生の日常を淡々と描いた青春映画」と聞いて、億劫だなと思って観始めた『はちどり』。 だいたい〈はちどり〉って何? 「世界で最も小さい鳥のひとつでありながら、その羽を1 秒に80 回も羽ばたかせ、 蜜を求めて長く飛び続ける鳥」で、「希望、愛、生命力の象徴とされる。 その姿が主人公のウニと似ていると思った」と女性監督のキム・ボラ(1981年生まれ)は言う。 なるほどそれならば、と重い腰を上げて観始めると、ヒロインと同じ歳のころの自分が甦ってきて胸が苦しくなる。誰にも理解されず、周囲と交わることができなかったウニと同様の自分の孤独感が重なる。 1994 年、ソウル。家族と集合団地で暮らす14歳のウニは、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。 ある日、通っていた漢文塾に女性教師のヨンジがやってくる。彼女は自分の話に耳を傾けてくれるヨンジに次第に心を開いていく。そんなある朝、ソンス大橋崩落の知らせが入る。それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。 ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く……。 韓国における1994年は、長い間続いた軍事独裁政権が終って民主化が進められ、著しい経済成長を遂げた時代だ。 しかし、経済発展を急ぐあまりの手抜き工事によるビルや橋の崩壊が多発、大災害を招くという激動の時代だった。映画はそんな韓国社会とウニの成長を重ねて描いている。 「この小さいながらも、ひときわ力強く羽ばたく鳥、 蜂(ハチ)なのか鳥(トリ)なのか分からない存在〈はちどり〉は、 子どもでもなく、大人でもない中学生にぴったりの愛称である。」という『オールドボーイ』の監督パク・チャヌクの解説に得心した。 身体は小さいが、この〈はちどり〉は逞しく成長していくのだろう。いま話題の『82年生まれ、キム・ジヨン』公開が楽しみになった。

20/6/20(土)

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