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恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
シチリアーノ 裏切りの美学
20/8/28(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町
マルコ・ベロッキオ監督の映画は野心的だがギラつかない。シチリアの巨大犯罪結社コーザ・ノストラの掟を破って、司法当局の捜査協力者となった実在の大物マフィア、トンマーゾ・ブシェッタの裏切りを描いた本作もしかり。 主な舞台は1980年代。抗争の火だねくすぶるパーティーの夜から映画は一気に走り出す。ブラジルに飛んだブシェッタの豪奢な日々、マフィア戦争、ブシェッタの捜査協力で摘発された幹部たちの大裁判。ベロッキオは確かな手さばきで物語をつむいでいく。 オペラティックな叙事的描写の裏側で、ブシェッタの内面の叙情を掘り下げる。分厚い。だからギラつかない。誰かの襲撃に備えるブシェッタは一体何を恐れていたのか、終幕まで気が抜けない映画だ。
20/8/25(火)