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ノージャンル、ノーボーダー。個人的アンテナに引っかかるもの
佐藤 久理子
パリ在住、文化ジャーナリスト
椿の庭
21/4/9(金)
シネスイッチ銀座
海を見晴らす高台にひっそりと佇む、格調高い日本家屋と椿の咲き誇る庭。甘い思い出に満ちたその場所に佇む、凛とした祖母。そのたおやかな美しさに目が吸い寄せられる。ひたすら、この穏やかな時間を共有していたいと思う。 だが、夫の遺したこの家で孫娘と住む絹子のもとに、相続税の取り立てが迫る。「記憶は、場所やものに宿るでしょう。ここを離れたら今の私でなくなる」。絹子にとってその家を失うことは、夫と生きた時間の大切な記憶を奪われるようなものだ。 日本の写真史にその名を刻む巨匠、上田義彦が富司純子を主役に据えた初監督作は、四季折々の美しさの中で、うつろいゆくものの切なさと、それでも日々を懸命に生きることの清々しさを映し出す。そして、現代の日本人が忘れてしまった自然を、生きとし生けるものを慈しむ心を思い出させてくれる。 こんな日本映画を久々に観た気がする。
21/4/7(水)