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クラシック、歌舞伎、乱歩&横溝、そしてアイドルの著書多数

中川 右介

1960年生まれ、作家、編集者

スパイの妻〈劇場版〉

戦時中の関東軍の「闇」を背景にした「夫婦の物語」なのか、「夫婦の物語」は擬装で関東軍の「闇」を描く社会派作品なのか。いや、そういう分類が無意味なのだろう。 さまざまな見方が可能な、見ごたえのある映画だ。 タイトルは「スパイ」となっているが、007的なアクション映画ではないし、『寒い国から帰ったスパイ』のようなシリアスな諜報戦の映画でもない。 たしかに主人公は情報を盗み出すが、国家や軍、あるいはどこかの組織に雇われている諜報員ではない。自主的なスパイなのだ。 神戸が舞台で、当時の雰囲気がよく出ている。同時代の神戸の物語である手塚治虫の『アドルフに告ぐ』をなんとなく思い出した。 物語のなかでの日本の関東軍の「闇」は現実にあった出来事で、これまでも正面から描こうとした企画があったが、実現しなかったもの。こういう形で、フィクションの中のリアルとして描くことが、かえって闇の深さを伝える。 ラスト近くのどんでん返しを含め、伏線が見事で、ミステリ映画としても秀逸だ。 美しい映像は、冒頭から最後まで、リアルではあるが、つくりものめいていて、虚実の間隙にある物語を支える。 フィクションでしか描けない歴史物語を堪能した。

20/10/15(木)

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